企業のAI活用を「Sansan」の活用に重ねていく

 「Sansan」は、名刺管理サービスの枠を超え、全社の生産性向上や営業DXを支えるデータベースへと進化してきました。その最大の強みは、18年以上にわたり、名刺や商談メモといったアナログ情報の正確なデータ化に向き合い、企業・人物・活動単位で多様な情報を整理し、構造化してきた点です。
 生成AIの活用が広がる今、企業が競争優位性を得るために不可欠なのは、独自のデータです。一般的な生成AIは誰が使っても似たような回答しかできませんが、「Sansan」に蓄積された情報を組み合わせることで、企業毎に固有の実務的価値を生み出すことができます。つまり、企業のAI活用がそのまま「Sansan」の活用に直結する世界を実現していきます。
 その第一歩として、「Sansan」に蓄積された情報と生成AIを連携し、自然言語で活用できるようにする「Sansan MCPサーバー」の提供を開始します。営業現場やマネジメント層における意思決定や行動の質の変革に寄与することを目指しています。こうした取り組みを通じて、新規顧客の獲得や既存顧客のアップセルの加速に加え、解約率の一層の低下にもつなげていきます。
 多くの企業が「生成AIをどう活用すべきか」という問いに向き合い始めている今こそ、「Sansan」をその起点となるビジネスデータベースとして位置付け、確かな選択肢へと磨き上げていきます。

「Bill One」は機能拡充と営業生産性の向上で成長軌道を強化する

 これまで高成長を遂げてきた「Bill One」ですが、2025年5月期は法制度改正に伴う駆け込み需要が落ち着いたことで、成長スピードは減速しました。それでも、「経理DXから、全社の働き方を変える」という本質的な価値提案を軸に、成長軌道の強化に向けた手応えが確かに見え始めています。
 現在の最重要課題は、営業生産性の向上です。急成長に合わせて人材採用を進めてきましたが、新たに加わった人材が戦力化するには、一定の教育期間を要します。そのため、受注プロセスを可視化し、ボトルネックを特定して改善することで再現性を高め、人材の立ち上がりを加速させています。
 同時に、プロダクト面でも進化を続けています。当初の「請求書受領」に「経費精算」と「債権管理」をラインアップに加え、ユースケースを拡張してきました。2025年6月からは、請求書受領と経費精算の営業体制を統合し、セットでの販売も進めています。今後は、債権管理も加えた「Bill One Suite」としての提案を強化し、顧客単価や営業生産性のさらなる向上を図ります。実際に「1つのサービスで複数機能を使える方がシンプルで便利」という声をいただいており、想定以上に好意的な反応を得ています。
 海外展開についても拡大の余地は大きいと考えています。新規顧客の開拓だけではなく、現地のニーズを取り込み、日本に逆輸入するモデルも生まれつつあります。海外での需要がきっかけとなり、請求書の明細情報と発注データを生成AIで自動照合する新機能の導入も進んでいます。これは、グループ会社である言語理解研究所の自然言語処理技術を活用し、高度なデータ化を実現したものです。今後もタイを中心に海外展開を強化していきます。

「Contract One」が秘める大きな成長ポテンシャル

 「Contract One」は2022年にサービスを開始しました。きっかけは、「Bill One」のサービス展開を進める中で、請求書と同様に紙の契約書の管理に困っているという現場の声に気付いたことです。当社内でも、請求書のデータ化が進む一方で、多くの契約書が紙のまま残っており、社員が不便を強いられていました。世の中では電子契約サービスが普及し始めていましたが、それらは契約締結前の効率化が中心であり、締結後の契約書は依然として紙や電子ファイルとして散在していました。そこで、この課題を解決するために「Contract One」が生まれました。
 他のリーガルテックが契約締結前の支援を中心としているのに対して、「Contract One」は締結後の契約書を正確にデータベース化し、活用可能にする点に独自性があります。アナログな情報を高精度でデータ化するという当社の強みが、ここで競争優位性を発揮しています。現在、当社は各プロダクトへの生成AIの実装を進めていますが、最も大きな成長ポテンシャルを秘めているのがこの「Contract One」だと考えています。契約関連のデータは、企業毎に固有性が高く、その蓄積はまさにナレッジの宝庫です。
 例えば、特定の取引先との契約履歴や取引規模を瞬時にサマリー化できれば、営業現場での商談戦略の立案や経営判断の迅速化に直結します。実際、現場では取引先について十分に理解しないまま対応しているケースも少なくありません。契約書をデータ化し、簡単に可視化できるようにすることで、これまでにない価値を提供できると考えています。生成AIを用いた機能の強化を進めていきながら、この提供価値を前面に訴求し、新たな市場を創出していきます。
 一方で、当面の課題は認知度の低さです。「Sansan」の認知度に比べると「Contract One」はまだ限定的であり、現状ではSMEが中心の顧客層となっています。今後はエンタープライズ層への展開を加速させるべく、営業リソースを強化し、人材育成にも注力するとともに、2025年5月期末からはテレビCMの放映も開始しました。これにより認知を拡大させ、さらなる成長を目指します。

プロダクト横断的に事業戦略を考える

 私は複数の事業を統括する立場として、最適なリソース配分を検討する際に最も重視しているのが、営業生産性、すなわち営業社員1人当たりの受注金額です。この数値を月次で確認しながら、人員等のリソース配分に反映しています。
 事業の成長は、営業生産性をいかに高めるかに尽きます。そのためには、商談の量を増やすと同時に、受注へのコンバージョン率を高めることが重要です。2025年、全社的に推進している「AIファースト」の下、営業現場でも生成AIの活用が広がっています。訪問予定先の情報分析、マネジャーに代わる壁打ち、商談録画の自動分析、人材教育の効率化等、多様な取り組みによって業務効率は部門毎に差はあるものの数十パーセント単位で改善しつつあり、着実な成果が表れ始めています。
 当社がさらに成長していくためには、まずは各サービスがそれぞれの市場環境に合わせた成長を着実に進めることが不可欠です。その上で、将来的にはサービス間の連携によって、より大きな価値を生み出すことを目指しています。特に生成AIの活用においては、「Sansan」と「Contract One」の相性は極めて良好です。出会いの情報と、その結果でもある契約書情報が一体で蓄積されることで、従来にない新たな付加価値を提供できます。例えば、A社の関係性について生成AIに問えば、「Sansan」からは名刺交換の履歴が、「Contract One」からは過去の契約経緯が抽出され、より具体的に関係性を把握できるようになります。
 一方、「Bill One」では、請求書受領、経費精算、債権管理の各機能間でシナジーを生み出し、生成AIの活用も組み合わせることで、経理業務の自動化をさらに加速させます。
 また、「Sansan」と「Eight」はマーケットを共創するという意味で連携していきます。「Sansan」がエンタープライズ層を中心に拡大していく一方、SME層に対しては「Eight Team」との連携で成長を図ります。加えて、「Eight Team」のユーザーが「Sansan」に移行する際には、シームレスに活用できる環境を整備します。現時点では、両者の間にカニバリゼーションが起きるほど市場は狭くなく、それぞれの成長を優先することが最適と考えています。

ステークホルダーの皆さまに向けて

 創業メンバーの1人として、当社が掲げる長期ビジョン「ビジネスインフラになる」を実現する上で、生成AIの進化と普及は極めて大きなチャンスだと捉えています。私たちの事業は、まさにビジネスの中核を支えるインフラになり得ると確信しています。
 当社が展開する各サービスは、それぞれ独自の価値を持っており、これらをどうまとめ上げていくべきなのか、全社で進めてきたパーパス議論の中でも、1年以上にわたり模索を続けてきました。その過程で改めて認識したのは、積み重ねてきたデータや技術的資産に生成AIが組み合わさることで、ビジョン実現に向けた大きな一歩を踏み出せるということです。そして、その最大の機会が「今」です。全社の意識を揃え、この変化のタイミングを逃さずに、企業のAI活用を支援する基盤として、「Sansan」「Bill One」「Contract One」の価値をさらに高めていきます。
 また、私個人としては、中長期的にグローバル市場で事業を拡大する突破口を開きたいという強い想いがあります。現在は「Sansan」と「Bill One」を中心に展開していますが、AIの活用次第では、グローバルでの事業拡大の道筋もより一層明確になると考えています。「Sansan」は、名刺管理だけでなく、企業情報や活動情報も含むビジネスデータベースとなりました。世界においても、企業のコンタクト情報には変わらず価値があり、生成AIを組み合わせることで、新たな価値を生み出せるのは、国内外で違いはありません。現時点では、日本国内における成長を優先する段階にありますが、将来的にグローバル市場でも成長機会を捉えられる局面が来れば、迷わずアクセルを踏み、世界のビジネスインフラを目指して挑戦を続けます。
 当社の事業規模はまだ小さいですが、だからこそ成長が不可欠です。AIによって拡大したチャンスを確実に掴み、持続的な成長を実現してまいります。

取締役/執行役員/COO
富岡 圭