
ガバナンスの高度化に向けて

私が社外取締役兼監査等委員長に就任してから2年が経ちました。当社のガバナンスの実効性については、従前からも評価してきましたが、2024年5月期は、そのさらなる高度化に不可欠な議論の活性化に向けて2つの取り組みを進め、結果、モニタリング機能の強化につなげています。
取り組みの1つは、取締役会での議題にメリハリを付けたことです。資料等で内容が十分に理解できる議題に関しては説明を極力省略し、深い議論が必要な議題により多くの時間を割くように変更しました。結果、議論がより活性化し、その質が高まりました。ほかの取締役からも同様の評価を得ています。もう1つは、下期から、取締役会後にフリーディスカッションの時間を設けたことです。例えば、時価総額1兆円を目指すとした場合のシミュレーションや中期の財務方針等、10年後、20年後の未来を見据えた自由なディスカッションができています。その未来の実現に向けて、必要となる経営資本や達成の時間軸、方法等に結論が出たわけではありませんが、他社の事例も含めさまざまなシミュレーションを共有して役員同士の目線を合わせ、有意義な議論を今も続けています。
取締役会等での議論

この1年の取締役会を振り返ると、自己株式の取得や本社移転に係る事項等、活発に議論を交わしてきました。自己株式の取得においては、足元の株価動向やストックオプションによる希薄化率、株主還元の考え方といった視点はもちろん、買い付け総額の妥当性や今後の還元方針の打ち出し方等について、社外取締役からもさまざまな提言を行いました。
取締役会での議論をさらに活性化するには、執行側の考えや経営課題に対する理解が欠かせません。そこで私は昨年、監査等委員長として、執行役員面談を実施しました。業務上の懸念点に加え、ここ数年でかなり人員を拡大したことから、現場の社員の様子や人材育成の進捗についてもヒアリングしました。各部署とも工夫を凝らした育成施策を進めており、特に問題ないことを確認できました。
新たなガバナンス体制

8月の株主総会での承認を経て、新たに1名の社外取締役が加わり、社外取締役は計5名と、社内取締役と同数になりました。また、全ての社外取締役が監査等委員を兼務していたこれまでの体制を変更し、5名の社外取締役のうち2名は、監査等委員ではない社外取締役となりました。社外取締役の中で役割を分けることで、これまで以上に個々の専門性や知見を、当社経営のモニタリング強化に活かしていけるようにしたいと思います。
また、取締役会のダイバーシティの観点では、当社は2030年5月期までに女性取締役比率30%以上という目標を掲げており、この点にはまだ課題が残っています。達成に向けては、社内からの女性取締役の輩出にも取り組む必要があると考えます。女性執行役員は現在、これまでの1名から2名に増えており、将来的な社内の女性取締役の登用につなげてほしいと期待しています。
監査等委員会について

当社には、常勤の監査等委員がいないことから、監査等委員会と内部監査室とが緊密に連携していくことが重要だと考えています。これまでは、内部監査の結果を踏まえて質問や意見交換等を進めてきましたが、今後は、監査等委員長と事務局・内部監査室との間で定期的にミーティングを開催し、内部監査方針についてもより綿密に事前に協議する体制を構築していきます。
また、これまで監査等委員長として進めてきた執行役員面談には、私以外の監査等委員も参画するようにしていきたいと思います。そして、執行役員面談や監査等委員会で得られた情報については、適宜、監査等委員ではない社外取締役とも共有・連携していける運営体制を構築したいと考えています。
指名報酬諮問委員会について

指名報酬諮問委員会では、新任の社外取締役の選任を含め、2024年8月以降の新たな取締役会体制について議論してきました。また、サクセッションプランについては、具体的な策定には至っていないものの、2024年5月期には、社内において100年先を見据えたパーパスの議論が進んでいると取締役会で報告を受けています。サクセッションプランに対する執行側の意識は高まってきており、今後、引き続き検討を進めていきます。
企業価値向上に向けて

当社経営の特徴の1つに、CEOの強いリーダーシップの下で非常にスピーディな意思決定が行われ、着実に成長を遂げているところが挙げられます。一般的に、何かをやめる時の決断は、何かを始める時の決断に比べて難しく、躊躇もしがちですが、コロナ禍でのリソース最適化等を目指した組織改編やその後の元の組織体制への回帰、さらには不採算事業からの撤退等、うまくいかなそうな時にそれを早期に見極め、やめる決断を下す、そのスピードを高く評価しています。経営の軸として、社会課題をどう解決していくかを真摯に追求する姿勢は、会社全体にも波及・浸透しており、社員1人ひとりが高い感度で課題解決に必要なシステムを作り上げる実行力を有しているところに、当社の強みを感じます。財務方針の議論の中からは、経営陣の数字に対する非常にシビアな姿勢も伝わってきており、今の当社経営に、大きな課題や不安を感じてはいません。
私の役割は、スピーディかつ柔軟な判断を尊重しながら、意思決定の根拠や法的リスク等について、適宜提言をしていくことだと認識しています。強いリーダーシップの下、その経営判断を間違ってしまったり、違う方向に向かってしまったりすることのないよう、しっかりとモニタリングをすることが、私を含めた全社外取締役の責務です。
中期財務方針を示し、当社のフェーズは変わったように感じます。中期財務方針を継続できるよう、しっかりとモニタリングし、同時に進化を続ける当社サービス等への理解を深めた上で、経営に資する助言を行い、企業価値の向上に貢献していきたいと思います。

社外取締役/監査等委員
(監査等委員長・指名報酬諮問委員長)
鈴木 真紀