この1年は、世界人類にとってウィズコロナがポストコロナへと移り変わっていった端境期でした。一般的に、コロナ禍によってデジタルトランスフォーメーション(DX)全般には追い風が吹いたと言われています。しかし実際は、個々のサービスや商品の性質によって、取り巻く事業環境は大きく異なりました。

 

当社グループの屋台骨であり、名刺管理サービスとして展開してきた「Sansan」においては、対面での接点が劇的に減少した向かい風の中、私たちは、本来なら10年くらいの年月をかけて実施するような大規模なプロダクト刷新を、コロナ禍の2年でやりきりました。また、この1年、社内で立てた目標を上回るスピードで急成長を続けたのが、インボイス管理サービス「Bill One」です。経理業務において、月次決算の加速を支援するという本質的な価値の提供に加えて、直近では、法制度への対応需要もあいまって成長スピードが加速しています。「Eight」は、既に300万人超のユーザーを有し、「Eight」から得られる統計データ等を「Sansan」の中でも活用できる点で、単純な売上高のドライバーとしてではなくインフラ的存在として価値を創出しています。そこで今後は、売上高成長よりも早期の収益化を重視することを事業戦略に掲げました。加えて、当社のサービスラインアップには契約DXサービス「Contract One」が加わっており、プロダクトマーケットフィットを目指すべく、事業の確立に向けて取り組みました。

 

この結果、2023年5月期の連結売上高は前年同期比24.9%増、調整後営業利益は前年同期比28.9%増と、堅調に業績は拡大しました。

 

2024年5月期の連結売上高見通しを前年同期比28%~32%増と発表しましたが、3割規模の売上高成長率を公表できたのは実に4年ぶりです。これまで事業規模を拡大してきた中、「Eight」については売上高成長から利益重視に方針転換することも織り込んだ上で、2024年5月期は成長の再加速について、しっかり形にすることを示しました。と同時に、この成長率が単年で終わらず、今後の標準値となるようなデリバリーを示せるかが問われる1年だと認識しています。

 

まず、コロナ禍で進めた「最適化」から、足元の堅調な事業成長の状況に鑑みて、再度「最大化」へ舵を切るべく、Sansan/Bill One事業部の組織再編を行いました。また、新たなビジネス領域の拡大にもチャレンジしており、2023年6月には、「Bill One」のオプション機能として「Bill Oneビジネスカード」をリリースしました。当社として初となるフィンテック領域への進出となりますが、市場で確立された法人カードビジネスのプラクティスから対処ポイントを押さえ、適切なリスク管理体制を構築することで事業の成長を支えていきます。

 

私自身は常に、非連続な成長をしたいと強く思っていますが、非連続な成長を実現するための取り組み自体は、一歩一歩前進する連続の積み重ねです。しかし今、踏みしめる一歩には、これまで以上にこの方向で間違いはないという確信が込められ、歩みを進めるスピードや一歩で踏みしめる面積が広がっていく、そうした感覚も覚えています。

 

コロナ禍での取り組みが明確な手応えに変わった今、これから売上高成長を再加速させ、私たちは、さらに一段高い新たなステージに入る、そうしたタイミングにあると感じていますDX全体への追い風は今も続いており、この成長市場の中で、当社グループにしかできない付加価値を常に追求していきます。ステークホルダーの皆さまには引き続きご支援をいただけますようお願い申し上げます。

 

2023年8月
代表取締役社長/CEO 寺田 親弘